Britain's Got Talent 2019 を通して成長したマジシャン Ben Hart ~想像力~

先に書いておくと、この記事はクリストファー・ノーラン監督の
『プレステージ』を観ていることを前提に書いています
したがって、映画の致命的なネタバレも含んでいるので
読む上で気を付けてください



さて、先日終了した Britain's Got Talent 2019は
オーディションの時点からして、マジシャンの出場が例年と比べてとても多く
準決勝に至っては、5日間毎日2人ずつマジシャンがパフォーマンスをするなど
前例のないマジシャンの多さが目立つような大会だったね
決勝戦の最終順位は、準優勝がXで、3位入賞がBen Hart と
最終化に至るまでマジシャン尽くしだったシーズン13だけど
今回は、タイトルにもある通り、3位入賞の Ben Hart の事で
知っておいて欲しいというか、考察したことがあるので、書き残しておく

まずは、オーディションでのベンのマジックを見ていきましょう

決勝戦を見た後で、改めてオーディションのマジックを見てみると
ステージは派手だし、客席まで移動してステージを大きく使っているし
タマゴのマジックの様に小さなイリュージョンから
後半の瞬間移動マジックという大掛かりなイリュージョンに至るまで
ベンは、まるで自分が大きなステージでやりたいことを詰め込んだように
マジックのおもちゃ箱をひっくり返したような状態でパフォーマンスをしている
オーディションの映像だけを見れば、そうは感じないかもしれないけど
準決勝で規模を小さくさせ、決勝に至っては語りがアクトの半分でもあるほど
しかも、これ以降はミニマルなマジックに徹するようになっているから
ここでは本当に、自分がやりたいことだけをやっていたのが分かる

SNS上では、ベンのオーディションが放送されて以降
彼がやったタマゴのマジックの種や仕掛けを推理しようとする声が飛び交ったらしく
かなり多くの「予想」が打ち立てられていたというのが、ニュースサイトに載るほど
本当に多くの視聴者が、あのマジックについて語りまくっていたようだ
その上、いまだに誰も「確実にこれが正解である」という考えには至っていない
ともかくとして、それほどまでに、タマゴのマジックは反響があった
しかし、このマジックは、そもそもベンにとっては余興のつもりだったマジックでもある

ベンがオーディションで見て欲しかったマジック
benhart1.jpg
当然ながら、彼が見て欲しかったのは、一番大掛かりなイリュージョン
テスラ・コイルの電力を使って、人体を瞬間移動させるマジックだ
たぶん、この装置を作るためにお金も相当かけただろうし
大きなステージだからこそ、このマジックがしたかったんだろうと思う

ところで、このイリュージョンマジック
どういう方法で瞬間移動をさせたのだと思う?
カーテンで閉め切った後、足元から外に出て
こっそり裏側から反対側の木枠の中に入ったとか?

先に、このマジックの種明かしをすると
これは単なるイリュージョンではなく、実はものすごくシンプル
瞬間移動前後で、全くの別人が登場している
benhart2.jpg
凄く似ている二人だし、顔や髪形で判断しきれないところはあるけれど
一つ、確実に違う二人だと言い切れるのは
よく見ると、ヒョウ柄が微妙に違っているのが分かる
なので、それぞれ装置の後ろで隠れたり現れたりしているだけということだ

重要なのはここから
種も仕掛けも分かりやすいマジックを披露したということが重要なのではなく
ビクトリア朝の衣装やステージ上の演出
そして、テスラ・コイルを使った瞬間移動装置
この全てのヒントを、ベンはおそらく、映画『プレステージ』から持ってきて来ている

先にも書いたように、致命的なネタバレも書く
これは、映画の冒頭2分半の映像なんだけど
テスラコイルに、瞬間移動、そして舞台は19世紀末のロンドン
これだけで、もう既に影響をもろに受けているのが分かると思う
しかも、単にビジュアルで影響を受けているというだけではなく
根底にあるマジシャンとしての考え方の影響すら受けている

映画『プレステージ』の内容をネタバレありで、どういう話なのかを書くと
ヒュー・ジャックマン演じる、ロバート・アンジャーというマジシャンと
クリスチャン・ベール演じる、アルフレッド・ボーデンというマジシャン
二人のマジシャンが、過去の因縁によってマジックを競い合い、殺し合う話

アンジャーは貴族出身で、上の動画で水槽の中に落ちるマジシャン
マイケル・ケイン演じる、ハリーという奇術師の師匠にマジックを教わってたんだけど
アンジャーの奥さんが水槽脱出マジックの事故で亡くなってしまう
そして、その事故を引き起こしたのが、生まれも育ちも不明なマジシャン、ボーデン
上の動画だと、水槽を割ろうとしている方のマジシャン

アンジャーは、とにかく派手な演出で、観客を惹きつけるマジックを好むけど
マジシャンとしては凡人なところがあって、発想力に乏しい
逆に、ボーデンはマジックの天才で、新しいマジックをいくつも発案するけど
演出力が全くなく、すごく地味なため、観客を呼ぶ力を持っていない

アンジャーは、ボーデンを出し抜こうと
スパイを送り込んだり、妨害をしたり、色々と画策をする上に
変装をしてまでボーデンのマジックを見に行って、敵情視察していた
そんなある日、アンジャーは、ボーデンが発案した全く新しいマジックを目の当たりにする

アンジャー「奴は新しいマジックをやっていた」
助手女「どうだったの?」
アンジャー「あんなに素晴らしいマジックは今までに見たことがない」
ボーデンの新マジックは、ゴムボールを跳ねさせながら扉の中に入り
ほとんど間を開けずに、反対側の扉から出て見せて、ゴムボールを掴むというもの
だけど、この瞬間移動マジックの凄さを、観客は誰も理解できず拍手はまばら

この新マジックに心を奪われたアンジャーは
何とかボーデンのマジックをマネて自分の劇場でやってやろうと
師匠と共にマジックの秘密を予想するんだけど
師匠「あれはシンプルなマジックだ、似た人を連れてきただけだ」
アンジャー「いいや、絶対にもっと複雑なマジックのはずだ」と口論
最終的に、ボーデンは左の小指と薬指を失っていて
扉に入って、反対側の扉から出るボーデン
二人ともが同じけがをしているのが分かったために
マジックの種が分からずじまいになってしまうという

それでもアンジャーは、アンジャーなりに似たようなマジックを考えて
自分にそっくりな役者を連れてきて、瞬間移動してるっぽく見せるマジックをして見せる
なんやかんやあって、ボーデンがアンジャーの影武者に余計なことを吹き込み
影武者がアンジャーのステージを台無しにしてしまうという事件が起きるんだけど
それを機に、アンジャーはなんやかんやあって
科学者ニコラ・テスラの力を借りて、人間を複製する機械を作る
これが、映画の冒頭で出てくるテスラコイルがバチバチ言ってる装置
そして、複製装置によってコピーされたアンジャーは別の場所に出現し
コピー元のアンジャーは、舞台の下にある水槽の中に閉じ込められて死亡
これを、マジックのたびに行うということをしていた(すごい端折った

だけど、最終的に、アンジャーはボーデンの瞬間移動マジックの種を知る
ボーデンには双子の兄弟がいて、二人で一人分の人生を歩み続けていたという
一人が事故で左の小指と薬指を失えば、わざわざもう一人の指を切断してまで
マジックの種を隠すために、多くを犠牲にしていたのだと

余談だけど、実際の映画はものすごく複雑な流れで
ボーデンのマジックの秘密全てが書かれた日記をアンジャーが盗み出し
その日記に書かれてる内容を読みながら書いた日記を
死刑囚になったボーデンが獄中で読んでいる、という映画
ボーデンの日記を読んだアンジャーの日記を読んでるボーデンという構図
あと、双子ってさらっと書いたけども、劇中では何度もヒントが出てくるし
ヒントが出てくるのに、何回も見ないと真実に気が付かない難解な映画

この映画から多大な影響を受けたであろうベンの行動

再度、改めて、ベンのマジックや、彼の言動を考えてみよう
やろうと思えば、女性マジシャン集団Angels Inc がやってたみたいな
鉄製の枠や檻でも、現代風なステージングでも良かったはずなのに
ビクトリア朝、19世紀末ロンドンっぽい雰囲気を出すために
わざわざ木枠にしていたり、テスラコイルっぽい装置を持ってきていたし
衣装まで、セミファイナルやファイナルと違って「衣装」になってもいた
というか、テスラコイルを使った瞬間移動って言う時点で
映画『The Prestige』のビジュアル的な影響を多大に受けているのが分かるし
だから、ベンとしては、本当は大掛かりなイリュージョンを見てもらいたかったはず

だけど、観客はお金のかかったイリュージョンよりも、タマゴのマジックに惹かれていた
この事に対して、準決勝でのベンは、マジックを始める前にこう語っている

Now last time I perform for you, I tried to fill the stage with as much equipment I can fit in
But it turns out what captured your imagination was, something very small and simple
It was tiny little egg
「前回のパフォーマンスでは、ステージに入れられるだけの道具を入れた」
「だけど、みなさんの想像力を引いてやまなかったのは」
「(大掛かりな装置ではなく)とても小さく、シンプルなマジック、小さなタマゴでした」

ここで重要なのは、ベンが自分のマジックを「シンプル」だと言ったということだ
ニュースにもなるぐらい、ベンのタマゴのマジックは
SNS上で多くの人が種や仕掛けを暴こうとしていて暴けていないのに
マジックをしたベン自身は、あのマジックを「シンプル」だと言っているという
実は、あのマジックは観客が勝手に想像するように難しいマジックではなく
本当は、誰にでもできるような、ごく簡単な方法で再現できるものなのかもしれない

そして、そもそも前座なわけだから、もしタマゴのマジックが反響を得られていなかったら
ベンはそのまま、19世紀末のロンドンっぽい雰囲気を継続させ
派手で大掛かりなイリュージョンをすることで
アンジャーのようなイリュージョニストになろうとしていたんじゃないかと思う
ともすれば、準決勝や決勝は、自分自身が瞬間移動をして見せて
あるいは、映画の再現をして見せていたのかもしれない

だけど、自分のマジックが勝手に独り歩きをし始めたのを見たベンは
オーディション以降のマジックを変えていく
というより、イリュージョンにこだわるのではなく
観客のイマジネーションを刺激するようなマジックにこだわっていく
決勝戦でのマジックを思い返してみると
ベンが語りの中で2、3度繰り返していた「イマジネーション」という言葉
「このマジックに必要なのは、みなさんの想像力です」と言っているわけだし

そして、決勝戦でのマジックは
アクトの半分を、観客の想像力に働きかけるパフォーマンス、語りだったね

ベンがトランプを縮めていくというマジックを披露しているというのに
そのマジックは、ベンのおじいさんがインドで経験したマジックの再現だし
そうすると、ベンはベン・ハートとしてステージに立っているのではなく
ベンのおじいさんがかつて見たという、雨の中のマジシャンに見えてくるという
それも、ベンの語りを聞きながら、観客一人一人が頭に思い浮かべたマジシャンに

ベンの本来のマジック

ベンの公式チャンネルに、BGT以前のマジック動画が投稿されていた
その動画を見ると、ベンはやっぱりイリュージョンが主流で
しかも、ビクトリア朝なスタイルの、上品なマジシャンであり
かなり手の込んだマジックを披露するマジシャンだったみたい

こうしてみると、オーディションの時は露骨に『The Prestige』の影響を見せてたけど
決勝ではものすごくミニマルなマジックを披露するって言うのは
ベンにとっては、殻を破るようなパフォーマンスだったのかもしれない
自分にとってのマジックのルーツを語りながらのパフォーマンスだったわけだし
衣装だって、セミファイナルでは取っ払ってステージに挑んでいたし
最終的に、ベンはこの番組を通して、自分のスタイルを確立させたのかも、と思った

ちなみに、決勝での語りの中にも、『The Prestige』の影響が見え隠れする
「最高のマジックとは、最高の物語の様に
始まりと、中間と、終わりを持ってるものだ」と、冒頭で、彼は言っているけど
それと一緒にマジックをして見せているよね
『The Prestige』の冒頭でも、この3ステップを使っている
あらゆるマジックは3つのステップを持っている
プレッジ:種も仕掛けもないことを見せる
ターン:ものを消すなどの超常的なことをして見せる
プレステージ:元の状態に戻して見せる
ベンのやったことは、映画で言っている、マジシャンの鉄則とはちょっと違うけども
彼が言っている「最高のマジック論」は、やっぱりプレステージの影響からの様に思える

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