Eurovision 2019 アゼルバイジャン代表 Chingiz Mustafayev の『Truth』 和訳・歌詞解釈と考察

鏡に映る自分を見る 分かってる このままじゃいけないなんてことは 
だけど、人は決して変わろうとはしない 生きる為に自分を偽るのだ 

2018年12月20日に、アゼルバイジャンの放送局 İctimai Television (以下iTV)が
ESC 2019 も内部選考によって代表者を決定することを発表し
その後、2019年2月7日には、350を超える楽曲が公募によって集まり
4人のアーティストが代表候補として最終予選を受けていたそうです
内部選考の最終予選まで残ったのは、The Voice of Azerbaijan の決勝進出者たちである
Tofig HajiyevLeman DadashovaSamira Efendiyeva
そして、2015年のウクライナ版 The Voice 出場者の Chingiz Mustafayev
奇しくも、アゼルバイジャン版The Voice の同窓会の様相を呈した内部選考ですが
iTV は3月8日に、チンギス・ムスタファイェフを代表とするアナウンスを発表しました

アゼルバイジャン代表に決まったチンギスの為に曲を書いたのは
Dance Alone』『Beautiful Mess』『In Too Deep』と、ESCソングの製作を手掛ける
ブルガリアの作曲家 Borislav Milanov 氏
フラメンコ歌唱の影響を色濃く受けるチンギスに対して
モダンな曲を多く書いている Borislav のコンビが送る曲は
アゼルバイジャンの伝統的な音楽感を内包しつつも
今時のESCらしい構造の楽曲『Truth』です
全く異なると言って良いような音楽家二人が作り上げた世界はどのようなものなのか

先に書いておくと、秀逸な歌詞である、と私は評価します
それでは、歌詞の世界と一緒に見ていきましょう

もくじ
歌詞和訳『Telemóveis (携帯電話)』
歌詞の内容について
歌詞解釈と解説
 - Verse1
 - Pre-Chorus
 - Chorus
 - Verse2
 - Bridge
真実とは
Chingiz Mustafayev ってどんな人?

公式MV


歌詞和訳『Truth (真実)』
Verse 1
I'm in the mirror
オレは鏡の中にいる
So freaking bitter
尋常じゃない苦しい
But I’ve gotta get through
だけど オレは抜け出さなきゃいけない
I'm gonna get through
オレは抜け出す

Keep it together
我慢しろ
Be cool under pressure
冷静になれ 緊張の中であっても
'Cause she wants to break you
だって彼女がキミを壊したがってるから
She wants to break you
彼女がキミを壊したがってるから

Pre-Chorus
Drink till I forget
忘れるまで飲むんだ
She’s on to the next
彼女は先に進んでいる
And when the ghost starts screaming
そして、幽霊が叫び始め
Right when they resonate
共鳴するまさにその時
Hear my heart confess
聞こえる ボクの鼓動が告白するのを

Chorus
It's been so hard to bear
本当に難しいんだ 耐えるって言うのは
So shut up about it
だから黙っててくれ
Shut up about it
黙っていてくれ
It's just too hard to hear
ただ心底 聞きたくないだけなんだ
So shut up about it
だから黙っていてくれ
Shut up about it
黙っていてくれ

Post-Chorus
Oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Shut up, shut up about it
黙れ、黙っていてくれ

Verse 2
Out of the mirror
鏡の外
It's getting clearer
澄んでいく
Then out of the blue
そして、突然
She crashes the room
彼女が部屋を壊す
Gotta remember
覚えておかねば
She is a killer
彼女は人を殺す
With that freaking perfume
あのヤバい香水と
Girl, it's too soon
お嬢さん、早すぎるよ

Chorus
It's been so hard to bear
本当に難しいんだ 耐えるって言うのは
So shut up about it
だから黙っててくれ
Shut up about it
黙っていてくれ
It's just too hard to hear
ただ心底 聞きたくないだけなんだ
So shut up about it
だから黙っていてくれ
Shut up about it
黙っていてくれ

Post-Chorus
Oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Shut up, shut up about it
黙って、黙っていてくれ
Oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Shut up, shut up about it
黙って、黙っていてくれ

Bridge
I don't need, I don’t need the truth
オレはいらない、オレはいらないんだ真実なんて
I don’t need, I don't need the truth
オレはいらない、オレはいらないんだ真実なんて

Chorus
It's been so hard to bear
本当に難しいんだ 耐えるって言うのは
So shut up about it
だから黙っててくれ
Shut up about it
黙っていてくれ
It's just too hard to hear
ただ心底 聞きたくないだけなんだ
So shut up about it
だから黙っていてくれ
Shut up about it
黙っていてくれ

Post-Chorus
Oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Shut up, shut up about it
黙って、黙っていてくれ
Oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Shut up, shut up about it
黙って、黙っていてくれ

歌詞参照元
https://genius.com/Chingiz-truth-lyrics

歌詞の内容について
物々しい雰囲気のある歌詞ですが、状況を整理していくと
至ってシンプルな失恋ソングであると言うことが見えてくるかと思います

wiwibloggs の取材によると、この曲の内容は
不誠実で精神衛生に悪い人間関係をテーマにした物語なのだそうです
楽曲を要約すると、恋人の裏切り行為に気が付いた主人公が
欺瞞を受け入れるべきか、それとも偽りの幸せから解放されるべきか、と言う
その、非常に難しい選択に迫られた主人公の心境を描いているのだそうです

そうした内容である、と言う事を念頭に置けば
歌詞の内容は大体理解することが出来るかと思いますが
一部、少し難しい表現や慣用句があるので
それらを合わせてこの曲の中身を紐解いていきましょう

歌詞解釈と解説
Verse 1
「I'm in the mirror (オレは鏡の中にいる)」と言う構図は
なにも、主人公が暖炉の上の鏡の中に入ってしまったというわけではなく
洗面台の正面などにある鏡に、自分の姿が映っている事を言っているのでしょう
「So freaking bitter (尋常じゃない苦しい)」
自分の姿を鏡で見るまでは、自分が苦々しい表情をしていることに気がつかず
そうした自分の姿を見て、その状況から抜け出さなくては
と、自分を変えようとするところから、この曲は始まります

ちなみに、ビターチョコなどの「Bitter」は
「苦味」以外にも「苦しみ」そのものを表す言葉でもあります

注目すべきは、
「But I’ve gotta get through (だけど、オレは抜け出さなきゃいけない)」
→「I'm gonna get through (オレは抜け出す)」と言う、心境の変化です
「I have got to (~をしなければいけない)」と言う
自分の意志とは無関係に、状況的にそうせざるを得なくなった、と言う表現から
「I'm going to (~をする)」と言う、自らの意思で行動に移そうとする変化
そして、主人公の強い決意を、この短い間で表現しているのです

Keep it together
直訳すると、一か所に集めてその状態を保たせる、と言った意味になりますが
感情が高ぶり過ぎたり、正気を失ったりしない様にする、と言う意味合いがあります
つまり、感情を抑える、我慢する、などといったイディオムと言う事です
激高することも、取り乱すということも
どちらにしても、集中できずに意識が四散するわけですから
バラバラにならない様に、一か所にとどめるから、我慢するというわけです

実際、「Keep it together」の歌詞の直後も
「Be cool under pressure (冷静になれ 緊張の中であっても)」と続いていますね

さて、主人公が鏡に映る自分を見て
自己暗示をかけるかのように、先に進む決断をしたり
言い聞かせるように、努めて冷静であろうとしています
なぜなら、「She (彼女)」が主人公を破壊しようとしているからです

「'Cause she wants to break you (だって彼女がキミを壊したがってるから)」
主人公を「壊そうとする」と言うのは、物理的な「破壊」ではなく
先ほどの「Keep it together」と同じように
主人公の正気を破壊しようとする存在と言う事です

Pre-Chorus
Verse1 で現実と向き合おうとした決心したはずの主人公は
しかし、いやなことから目を背け、酒に溺れて忘れてしまおうとします
「She’s on to the next (彼女は先に進んでいる)」と言うのは
いつまでも「彼女」の幻影に囚われている主人公と違って
「彼女」は新しい人生を歩んでいるのか、もうさっさと先に進んでしまっていて
その現実を受け入れられない主人公は、さらに酒に溺れていることではないかと思います

とは言え、その状況を甘んじて受け入れ、漫然と過ごしている自分を顧みて
鏡の前に立って言ったように、このままではいけない、とも考えています
「And when the ghost starts screaming (そして、幽霊が叫び始める時)」
しかし、主人公が感じている危機感は、非常に漠然としています
もし、幽霊ではなく鏡の中の自分が叫んでいるのなら
まだ、自分が何をすればいいのかをしっかりと持っていることにもなりますが
姿形があやふやな存在である幽霊だからこそ
漠然とした危機感を象徴として描かれているのでしょう

そして、漠然とした自分の感情と
「Right when they resonate (共鳴するまさにその時)」
意識的に「どうにかしなきゃ」と考えている自分が噛み合った時
「Hear my heart confess (聞こえる ボクの鼓動が告白するのを)」
自分の心が本当に言いたいことを言えるようになる、と訴えます

Chorus
とは言え、それが容易にできないから、酒に溺れるのであって
自分の声に、あるいは周囲からとやかく言われても
「It's been so hard to bear」
今の現状を耐え続けることは難しいし
「It's just too hard to hear」
かと言って、この状況を受け入れることもできたもんじゃない

だから、頼むから余計なことを吹き込まないでくれ
黙っていてくれ、と主人公は叫びます

Verse 2
Verse1 で鏡の外へと視線を移そうと考えた主人公は、Chorusでの葛藤を経て
Verse2 で、ようやく行動に移します
鏡から離れると、頭の中の靄が晴れていきますが
そこで突然、「彼女」が戻ってきます

「She crashes the room (彼女は部屋を壊す)」と言うのは
「She wants to break you」同様、物理的な「破壊」を意味するのではありません
「部屋の模様は心の一部」とも言われるように
何を大切にしているのか、何をないがしろにしているのか
整理整頓された部屋だとしても、荒れた部屋だとしても
そうしたところに、部屋の主の性格が出る以上に
心の形がそのまま表れるのが部屋と言うものです

それを「彼女が破壊する」と言うことは
主人公の心の平穏が保たれなくなる、と言うのと同じなのではないでしょうか

また、「She is a killer (彼女は人を殺す)」に関しても
実際に人を殺すような、殺人鬼であるという意味ではなく
人たらし、人をダメにさせる、首ったけにさせる、といった意味合いだと考えられます
ここでは、「主人公の平常心を殺す」=主人公が冷静でいられなくなると言う事でしょう
冷静でいるためにバラバラになりそうな心を一つにするという
Verse1の「Keep it together」の逆とも考えられますね

「With that freaking perfume (あのヤバい香水と)」
これも、主人公の平常心を奪うアイテムとして登場しています
彼女と別れようと考えるも、香水、もっと言えばフェロモンなどで誘惑されると
どうしても我慢が出来なくなってしまう
そして、サビの歌詞へと繋がっていくのでしょう

「Girl, it's too soon (お嬢さん、早すぎるよ)」
別れようと考えて距離を取ったのに、戻ってくるのが早いよ、と言う事なのか
この歌詞は正直なんであるのかよく分からないです

out of the blue
これは私も最初、分からなかったのですが
本来は「a bolt out of the blue sky (青い空から稲妻が出る)」という言い回しなのだそうです
日本語で分かりやすく言うと「青天の霹靂」がまさにそのまま
青天(青く晴れ渡った空に)、霹靂(急に雷が激しく鳴る)
そして、英語版「青天の霹靂」とも言える「a bolt out of the blue sky」を
短くした言葉が「out of the blue」なのだそうです

Bridge
歌詞を並べると目立つ形で存在する
「I don't need, I don’t need the truth (オレはいらない、オレはいらないんだ真実なんて)」
しかし、この歌詞は楽曲の中だとチンギスの歌唱パートではありません
動画の中では、2:32から、チンギスのエスニックなボーカルパフォーマンスが始まり
その後、2:35と2:45のタイミングで入ってくる
低音エフェクトをかけた男性の声として収録されています

しかし、この歌詞はこの曲の根幹にかかわってくる部分でもあり
この歌詞があるかないかで、楽曲全体の印象が大きく変わってしまう部分でもあります

改めて、この曲がこれまでどういうことを歌っていたのかを考えてみましょう
主人公は、恋人との関係が上手くいっておらず、精神的な苦痛を受け続けていました
それと言うのも、彼女が裏切り行為をしており、その事に主人公は気が付いているのですが
彼女の裏切り、欺瞞を受け入れるべきなのか、彼女の行動さえも受け入れてしまうべきなのか
その決断に迫られた主人公は、答えを出すことがなかなかできずに悩み続けているのです

ところが、主人公はそうした今の状況を耐え忍ぶばかりで、悩み続けるばかりで
あまり、現状を変えようとしている様には見えません
その状況から抜け出そうと考えることもあるものの、酒を飲んで答えを先延ばしにします
そうした主人公を見かねた声がかかってくるも
あるいは、自分で自分に「変わらなきゃ」と言い聞かせもしますが
「耐えるのだって辛いんだ、分かってるけど変われないんだ」
だから黙っていてくれ、と現状を変えるための一歩を踏み込めずにいます

そこにきて、「I don't need, I don’t need the truth」というこの歌詞です
「オレには真実なんていらないんだ」と言うセリフは
そもそもの発端である彼女の裏切り行為、その真偽と真意にさえ目を瞑っています
なぜなら、主人公は彼女の裏切り行為などどうでもよく
果てには、彼女の事さえも、内心ではどうでもいいと思っているからです

つまり、主人公にとって、目下、最大の悩みは
悩み事を抱えているという事そのものであり
それが、この曲における『Truth (真実)』 なのです


そして、そうした主人公の本心を、まるで、深層意識を表現するかのように
エフェクトのかかった低音ボイスでさりげなく表現されているのです

真実とは
ここまで解説を読めば
上記の通り、主人公は恋人の裏切りや不貞等どうでも良くて
ただただ、自分の心の平穏を保てさえいればそれでよい
と言ってしまうほどに、追いつめられていることが分かるかと思います

さて、歌詞の冒頭に戻ってみましょう
この曲の歌詞の冒頭には
真実を映し出す『鏡』と言うキーワードが登場します

そして、鏡の中に映る自分の姿は、彼女との人間関係によって疲弊しきり
苦しみぬいた果ての顔をしているのだということが分かります
そして、あまりにも凄絶な表情をしている自分を顧みて
「だけど オレは抜け出さなきゃいけない、いや、オレは抜け出す」
と、決意するのですが……
再び堂々巡りの旅へとかけてゆくのです

この曲の凄いところは、深層心理の表現をエフェクトをかけた音声で表現したり
開口一番、実はもう最初っから「真実」を映し出しているというところにあります
ただ、それを漫然と聞いていただけでは気が付かないように仕組んであるのです
誰だって、鏡で自分の姿を見ても、体から発せられる救難信号には気が付きませんし
あるいは、気づかない様に、無意識的に目をそらしたりするものです
恋愛関係に限らず、特定の人間関係で心を壊しても
自分を誤魔化し偽って、生き続けなければいけない
生きるために耐え続け、苦しみ続けなければならないのです
それが、この曲の『Truth (真実)』なのです


Chingiz Mustafayev ってどんな人?
チンギス・ムスタファイェフ (1991年3月11日生まれ)
アゼルバイジャンのシンガーソングライター兼ギタリストであるチンギスは
生まれはモスクワで、6歳の時にアゼルバイジャンのガザフに移り住みました
そして、幼いころからギターを習い、オリジナルソングを作り始めていたのだそうで
チンギスは、13歳の時に母親と弟と共に、アゼルバイジャンの首都、バクーに移ります
そして、2007年、アゼルバイジャン版の Pop Idol と言うオーディション番組に参加すると
彼はそれまで磨いてきた才能を発揮し、見事番組で優勝を果たし
その後、アゼルバイジャンの音楽業界でスター歌手となったのだそうです

2013年、チンギスはラトビアのユールマラで行われた歌唱大会 New Wave に参加し
後に2015年のESCロシア代表となる Polina Gagarina とデュエットをします
その大会では11位と言う成績に落ち着きますが、以来、テレビ界から姿を消してしまいます

チンギスが再びメディアに姿を現したのは2016年の事
ウクライナ版The Voiceのオーディションを受け、ブラインドオーディションを通過しますが
その後のバトルラウンドで敗退してしまいます

The Voice 以来、チンギスは Palmas というグループでの活動を開始します

Palmas で歌う曲は、主にアゼルバイジャンの伝統音楽とトルコ民謡の音楽感
そしてフラメンコギターとフラメンコ歌唱からの影響などを
巧みに使い分け、あるいは組み合わせて歌っているようです

また、確認できる限りでは英語歌唱の他に、アゼルバイジャン語で歌っている『Gedirem』
トルコ語で歌っている『Ninne』、スペイン語で歌っている『Solamente tu』
合計で4つの言語を巧みに操れるということが分かっています

ちなみに、バンドでの活動のほかに、もちろん、ソロでも活動をしており

精力的に活動している歌手であるということも分かっています

前回の記事
あああああああアゼルバイジャンの代表が!! まさかのあの人に!!! ~ESC2019 アゼルバイジャン~
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参考文献
https://wiwibloggs.com
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